先端技術フォーラム

2019/12/20

ロボットも人も大学もつながる時代へ、東工大における産学連携の取り組み

東京工業大学 工学院 機械系 武田行生 教授

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今日の製品は、無線により通信し合いながらさまざまな機器とつながり、サービスを提供する存在に進化している。これから製品は機械よりもソフトウェアの比率がますます多くなり、複雑に入り組んだコンピュータのようになる。さらに市場は、製品投入のスピード感をますます求めている。
つまり、従来のように機械や電気、ソフトといった分野に閉じてそれぞれが開発していればよい時代ではない。企業においても、その垣根を取り払う組織体制やプロセスに転じてきているが、大学も同様であるべきである。

21世紀に入ってから、日本政府による産学連携や大学発ベンチャーに対する啓もうや投資のための政策が実施されてきた。産学連携は、企業が大学の先端研究へ投資し、その成果を新たな市場開拓へつなげ、新たな知財創出を狙う取り組みである。2018年度に立ちあがった東京工業大学 工学院 産学連携室は、学部や教員単位ではなく学内全体での取り組みであることが特色である。同学では、研究分野や学部を飛び越えた教員同士で連携し、もちこまれた企業のニーズについて議論する体制になっている。

同産学連携室の室長である、東京工業大学工学院 機械系 教授の武田行生氏は、次世代ロボットのための機構学構築や高性能産業用ロボットの開発に携わる。また障がい者や高齢者の動作支援やリハビリ支援の装置開発や製品化にも取り組んできた。

武田氏が携わるロボット関連技術も、機構とソフトウェア、通信技術が密に絡み合い、「機械」から「サービス」へと変わりつつある。またビジネスは国内だけではなく、グローバル展開を視野に入れなければならない時代である。日本に閉ざすことなくシーズを探すことで、高度な技術と製品の実現性を高める、グローバルな産学連携への注目はますます高まっている。

国内における産学連携の現状と課題

この20年ほどの間で国内の産学連携関連組織や制度などは定着してきたものの、現状もまだ課題がある。また日本よりも20年ほど先行して進んできた欧米との取り組みと比較してしまえば、正直、水準は高くないといえる現状だ。国内において、大学発の革命的なビジネスおよび産業が活発に生まれているとは言いづらい。

国内の多くの大学における産学連携は、一部の研究室や教員単位で展開される。それぞれの学内では、さまざまな研究分野同士の連携はあまりなく、それぞれがコミュニティーを形成して発展してきた。同じ研究分野であっても大学が異なれば交流がないケースもある。また、各研究分野の研究者たちは、独自の研究文化の中で、独特な言葉を使っている。「異分野同士のコミュニケーションは『言語が違う』ようなもので、なかなか難しい」と武田氏も言う。

「大抵は、企業からのニーズに対して、それにマッチするであろう教員を紹介し、ミーティングを実施する。合致すればそれでOKであるが、そうではない場合は、それで終わりである。企業の固定的なニーズありきでシーズを探し、かつ過去の研究を使った産学連携であることが非常に多い。研究者は新しい研究に取り組めるとは限らず、それがあまり魅力的ではないと感じる場合もある」(武田氏)。

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東工大の産学連携は、企業のニーズも踏まえながら、周辺技術も含めて、教員を紹介しながら「どういうことができるか」を企業の研究者技術者と一緒に議論しながら、研究計画を立てていくことが可能な体制になっている。「社会や産業での課題を踏まえつつ、教員側が『新しい研究をやりたい』ということを踏まえながらの計画の支援が可能な組織である」(武田氏)。

企業のニーズは具体的に固まっておらず、例えば「人と協調する新しいロボットが作りたいが、どういう技術があるか知りたい」というように、漠然としていることもよくあるという。そのような場合は、技術の組み合わせで実現できることや発展的な可能性について、企業側と大学側とで議論を交わしながら、共同研究の計画を進めていく。

東工大の工学院での産学連携は学内全体が一丸となっての取り組みが実施されている。工学院内の機械、システム制御、電気電子、情報通信、経営工学の5つの系全てが連携している。東工大では組織自体がもともと、各教員や学生は異分野同士で交流・連携するのが当たり前な文化が醸成されやすくなっていた。これは国内の他大学では見られない文化であるという。そうした背景の下、東工大の産学連携室は誕生したというわけだ。

東工大の工学院には5つの系の研究を横断して理解している「目利き教員」がいて、企業とのミーティングの際に同席し、シーズとニーズをマッチングする議論に参加する。その際に重要となるのが「未公開情報」の扱い方である。企業との議論にあたっては守秘義務契約を結ぶ。このようなミーティングの場は年間で10件ほど持たれるが、その多くが大企業である。

東工大では「共同研究講座」制度を設けている。この制度は、企業などから資金を投じてもらい、大学内に研究組織を設置する制度である。大学と企業との議論は、この講座にたどり着くことを1つの目標として目指す。この制度では、産業活性や活用が見込める分野における新規の研究が安定して継続的に行えるようにすることを目的とする。企業内の研究者と大学の教員が、2~5年間を1タームとして繰り返し、時には10年くらいかけて共通の課題について共同で研究を進めていく。またその内容はできるだけオープンにしていく。

この講座には、専任教員を2人程度アサインできる。また大学院を中心として学生も配属することが可能だ。学生の支援が得られることは、大学と企業、双方にメリットがある。「大学では,企業における課題を極めて近い距離で知ることができ,これは研究に携わる学生にとっても大きなメリットであり,企業側は具体的な課題をスケジュール感も含めて課すことで社会で即戦力を持つ若者を鍛えることができる」(武田氏)。

グローバル産学連携の促進を

武田氏は、「日本企業は、欧米の産学連携の動向にもっと目を向けることが大事」だと述べる。現在の国内の産学連携は、国内で閉じたものも多いという。海外の研究へも目を向けることで、企業の抱えるニーズを実現するための手段の選択肢は大きく広がることになる。

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東工大では、海外の大学と共に現地合同ワークショップを実施するなど、国際的な産学連携を活性化させるための取り組みを実施してきている。東工大は、マサチューセッツ工科大学(MIT)、アーヘン工科大学といった欧米トップの大学らと連携して活動している。東工大が要となり、日本企業と海外大学との共同研究への縁をつないでいる。

一般に、日本企業や日本人は、英語など外国語でのコミュニケーションが苦手である傾向だ。そこでグローバルのコミュニケーションに長け、かつ専門知識にも長けた東工大の教員たちが仲介に入る。日本企業は東工大のサポートを受けながら、海外大学の現地でコミュニケーションを取ることができる。武田氏は、そういった大学の支援を受けながら海外プロジェクトを有意義に進められるメリットと併せ、「現地で直接見聞きする経験が、企業にとってよい刺激になる」と説く。一方大学側は、教員たちのグローバルな研究経験をより積ませることができるメリットもある。

大田区企業との取り組み

武田氏の研究室で開発したリハビリ装置の試作では大田区内の企業が活躍している。武田氏の研究室が取得した特許を生かしたいと大田区産業振興協会のコーディネーターに相談。「モノを作るのではなく、事業化する前提」とし、企業を紹介してもらったという。試作機は既に4台作成し、病院の現場で実際に実証実験を実施中だ。大学内の他分野の専門家や、病院の医師とも連携し、研究を進めているという。このプロジェクトは来年度中の製品完成と販売開始を目指しているとのことだ。ただし医療機器としての認証には少々の時間を要する見込みであり、その関連では課題も抱えている。

大田区産業振興協会が主催する「おおた研究・開発フェア」には東工大の産学連携室もブース出展し、相談を受け付けている。「企業にとって大学への相談は敷居が高いと思われているようだ。こちらとしてはどんどん来てもらいたい」と武田氏は言う。東工大では最新技術や研究の動向などを紹介する各種のイベントを開催しており,また学会等でも基礎的な内容の講習会も開催しているので,これらにも気軽に参加してほしいということだ。

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(執筆:DMM.make AKIBA)


【編集後記】
武田先生は日本のロボット技術研究のフロントランナーの東京工業大学において、ロボットの運動機能における機構・力学・特異点解析や制御手法の開発等の基礎研究に従事される一方で、工学院産学連携室長として企業との応用研究に積極的に取り組んでおられます。特に、アーヘン工科大学とのパラレルリンクロボットの高性能化をはじめとした世界のTier1工科系大学との国際産学連携では、企業の研究開発の国際化にも貢献されています。学術研究者としては極めて気さくなお人柄で、地域のものづくり企業からの信頼も厚く、先進福祉機器の開発等で中小事業者との継続的な開発活動により学術研究成果の技術移転が期待されています。

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