大田区ものづくり企業のご紹介

2020/01/27

樹脂精密加工の無限の可能性

有限会社岸本工業 代表取締役 岸本哲三氏

精密・微細加工はエレクトロニクス、電動車部品、医療機器、宇宙航空機器等、特に、製品の品質・精度が求められる産業においては必須の加工技術である。また、近年のIoTに代表されるデジタル産業の広がりの中で、マイクロ成型加工技術への要請はますます高まりつつある。日本の製造サプライチェーンが誇る加工技術としての精密・微細加工は大田区の企業の得意とする加工分野の一つだが、樹脂精密加工でさまざまな産業用途での製作実績がある有限会社岸本工業の岸本社長に、精密・微細加工技術の特徴についてお話しを伺った。

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有限会社岸本工業 代表取締役 岸本哲三氏

驚異の精度を追求した精密・微細加工:フルフラット加工

岸本工業は2020年オリンピックイヤー元旦に創業40周年を迎えた。

創業来の長年の現場経験から生まれた樹脂加工技術が、同社が特許を取得したフルフラット加工だ。プラスチック素材の板厚に対して寸法公差±0.03mmで切削し、平行度をだすことが可能となった。また、広い面積での均一、繊細な表面精度により、加工後の樹脂版同士がまるで接着されたように、くっつく。部材の組み合わせによる累積誤差が押さえられることにより、高い精度が要求されるプラスチック部品加工向けに需要が多い。また、製品製造の最終工程でのゆがみの調整などの手間を省かれるために、組み立てコストの削減も可能となる。

この驚異の樹脂加工技術は、特殊工具と、研磨熱による樹脂材料の変形を回避するための切削加工技術により実現した。

フルフラット加工技術の開発は、岸本社長が、樹脂加工の限界について素朴な疑問を持ったことが契機となった。“金属加工では出来ても、樹脂加工ではとても無理だよ”、発注先が当たり前のように話すことがどうしても納得がいかず、数多くの加工試作を行いながら現在の技術を完成したものだ。

世界の自動車業界では排気系から電動車への移行の波が押し寄せているが、電動車の走行距離の確保では電池開発と並んで、車体の軽量化は重要な開発課題で、近年、排気系車両も含めて、金属部品材料の樹脂系への代替が進んでいる。

一方で、樹脂材料は金属と比べ精度が安定しないことが加工現場の悩みの種となっている。

フルフラット加工は従来比より高精度のプラスチック加工を実現し、自動車業界はじめ、ミクロン単位の精度が要求される医療用樹脂製品、エネルギー機器、制電躯体等、幅広い分野での軽薄短小化も含めた製造ニーズに貢献することが期待される。

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フルフラット&可視化加工試作例

高透明度加工技術と岸本工業の加工相談対応力

樹脂の加工ニーズではさまざまなチャレンジングな加工技術分野があるが、そのうちの一つが制作物の中身の可視化である。用途としては、製品の内部構造の説明に使う展示や、研究開発での機構体の内部での物性検査や、流体検査等があげられる。

一般に、アクリル材料の可視化は表面処理であれば薬品処理や職人芸としての磨き技術で実現可能だが、アクリル製品の内部機構も含めた可視化は非常に高度な加工技術を必要とする。特に、研磨処理が難しい内部構造は同社の切削技術が有効である。アクリル材の可視化加工技術も岸本工業が長年培ってきた技術であり、フルフラット加工での精密・微細加工技術とあいまって、装置メーカーや研究開発機関からの要請に基づき、多くの製品製造実績がある。特に、新製品創造やプロトタイプの製作に関しては、設計図面がない段階から発注企業とのすりあわせが必要となるが、現場経験に基づいた材料や加工方法の提案力は、発注企業での予期せぬコストの回避や、納期の短縮化につながる。岸本工業は、発注企業にとって、頼りがいある試作相談パートナーと言える。

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フルフラット&可視化加工の一例

公的制度資金の活用による3次元測定機の導入

大手企業各社は、先端技術を基盤とした製品創出への取り組みが増えているが、あらたな製品の創出には、製品コンセプトをいかに、アジリティ高く作り上げるかが、競合マーケットでの製品ローンチの成否を決めるポイントとなる。

近年の大手各社のオープンイノベーションの高まりの中で、アジャイルな製品創造という点において、試作パートナーとしての中小製造業者の役割の重要性が増している。一方で、受注側の中小企業に対しては、単純な加工請負いではなく、今後は、製造物にたいする品質管理での一端を担うことや、製品創造についての加工コンサルテーション力も期待されるだろう。

大田区では精密・微細加工を行う企業の多くが三次元測定機を導入しているが、同社も国の助成施策である“ものづくり補助金”を有効に活用して2013年に、3次元測定器を導入した。これにより、発注先からの測定データ計測要請への対応として、測定プロセスの内製化を実現し、短納期や派生的な測定要請にたいしても対応できるようになり、発注先からの品質に対する信頼醸成につながっている。

近年のデジタル変革により、加工機の進化が早く、幅広い発注先の製作ニーズに応えるためにも、同社では複合機の導入も検討されている。同社は制度資金をタイミングよく利用しながら、生産性の向上とサプライチェーンのデジタル化にいち早く対応している中小企業の代表例といえるだろう。

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ご長男で工場長の岸本豊寿氏と岸本代表

樹脂材料の精密加工事業者としての岸本工業への期待

樹脂材料は電動車においては、全体重量を減らすための金属代替材料として採用が進んでいるほか、エンプラや樹脂と金属の接合技術の進化もあり、ますますその汎用材料としての重要性は増している。また、廃棄・残留プラスチックの環境負荷を低減させるためにリサイクル技術や生分解性プラスチックの開発による新たな樹脂材料の出現も予想される。オリンピックイヤーに、節目の40年を迎えた岸本工業が、さまざまな樹脂材料の出現に対して、今後、どのような加工技術を提供し、パートナーの技術課題を解決していくのか注目していきたい。


【編集後記】
岸本社長は服飾関係の企業を30代で退社した後に、起業し、製造業の世界に入りましたが、ものづくりへの情熱は、エンジニアであった先代のDNAを受け継いだものです。創業後に全国の客先を好きな自動車で駆け巡り、毎年、年間200千Kmほどを踏破したのは、ひとえに、客先の製造課題の解決に喜びを感じたことが原動力になりました。利益が確保できなかった受注も含めて、星の数ほどある現場のすりあわせの経験知が岸本工業の大きな財産になっています。また、ITリタラシーの高いご長女、ご長男が会社に加わり、発注先のデジタル変革に対応した体制の下、ますます進化する岸本工業に期待したいと思います。

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