大田区ものづくり企業のご紹介

2020/01/08

メーカーが困り切った課題を解決する黒子が、企業のイノベーションを支援する「Garage Ota」

サンケイエンジニアリング株式会社 代表取締役 土場義浩氏

サンケイエンジニアリングは加熱・冷却関連の実験や治具製作を得意とするエンジニアリング企業である。「熱は、全ての研究や設計開発における問題の99%にかかわっていると考えています」と同社の代表取締役 土場義浩氏は言う。土場氏らが携わる仕事の分野は、ハイテク機器、燃料電池、半導体、食品など多岐にわたる。

同社は、社内に切削加工機や3Dプリンタなどの加工設備は備えないファブレス企業である。実験や設計開発は社内を中心にして行い、設計の一部や部品加工について大田区内の協力企業と連携して取り組む。同社は、各企業との間に入って上手にプロジェクトを回すエンジニアリングを得意としている。こうした関わりを通じて、地域内の企業のビジネスの活性やイノベーション創出につなげたい考えだ。

サンケイエンジニアリングは2019年10月に本社内でベンチャー支援施設「Garage Ota」をオープンした。「Garage」を冠するベンチャー支援施設はリバネスのスーパーファクトリーグループが取りまとめており、東京都墨田区で浜野製作所が運営する「Garage Sumida」など全国に複数の拠点が存在する。それぞれの拠点では運営企業の特色や技術を生かしている。

Garageの施設は、事業スペースとして貸し出すインキュベーション施設の機能を備える場合が多いが、Garage Otaに関してはそのような事業は行わずコンサルティングに特化している。

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サンケイエンジニアリング株式会社 代表取締役 土場義浩氏、背後に「Garage Ota」のロゴ

「Garage Otaは黒子に徹する方針で、『隠密』のような存在なんです」と土場氏は語る。そのことから、Garage Otaのロゴのカラーはグレーである(社内ではNinja-grayと呼んでいる)。Garage Otaがそのようなコンセプトになった背景には、2002年の創業以来貫いてきたサンケイエンジニアリング自身のビジネスの方針があった。

“モノづくりの黒子”の裏玄関と表玄関

サンケイエンジニアリングでは、例えば、他社から断り続けられた案件や、進捗がないまま予算も期間も尽きてしまいそうになっている案件、つまり非常に難易度が高く緊急度の高い案件を受けることが多いという。土場氏はそのような受注案件の特徴から「モノづくりのICU(集中治療室)状態」であると説明する。

こちらから一切営業をかけずとも、同社のウワサを誰かから聞いた各社から、しかも“瀕死”状態ともいえる案件が、次から次へと飛び込んでくる。そして今も、受注案件はかなり先まで埋まっているという。依頼してくる企業の規模は大手から中小までさまざまである。

サンケイエンジニアリングは、顧客と一緒になって問題解決に取り組む。その中には機密度が高い重要な研究案件も含まれる。同社はあくまで黒子であり、その案件が後に日の目を見ることになっても、有名になっても、サンケイエンジニアリングの名前が表に出ることはないのだという。当然、同社からその案件にかかわったと公表することもない。そのように、社名をほとんど表に出していないにも関わらず、名前の知られた企業たちが、土場氏の評判を聞きつけて訪れる。

従来、熱問題に関わるエンジニアリング企業は、業種や分野に特化しているケースが多かったという。一方、サンケイエンジニアリングは、業種や分野に特化せずに対応可能である。「『できないものをどうにかすること』が仕事です。お客さんが困っていることを、協力会社の町工場にうまく翻訳して伝え、あらゆる手段を使いながら解決していきます」(土場氏)。また成果物は機械である場合もあれば、ソフトウェアの場合もあるという。

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土場氏

これまでのサンケイエンジにアリングは「裏玄関」しかなかったような状態であり、Garage Otaは同社の「表玄関」となるという。この表玄関は、同社がさらなる営業拡大を目指すためのものではなく、これからの時代を支える企業や技術者を育成する、あるいは地域の企業のビジネスを加速させることを目的としているという。

Garage Otaはオープン以来、さまざまな企業が相談に訪れている。その中には、社内ではまだ正式プロジェクトとは認知されていないものもある。企画部門や新規事業開発部門が、新製品開発を社内で提案する際に、加工方法や、材料についての技術的な裏付けを求めて相談に来るパターンが増えている。サンケイエンジニアリングは昨今のオープンイノベーションの高まりの中で、製品試作開発段階での企業の良き相談相手となっている。

「例えば大手企業の中だと、さまざまな加工法や技術を試したいというときには、社内調整に時間が割かれます。手続きをしている間は検証が進められません。それであれば、一部でも外注してしまった方が早く進められる場合があります。そういうニーズにも対応しています」(土場氏)。また、機械加工にあまり詳しくない設計者から話を聞き、町工場側と話をまとめる支援を行うこともあるという。

3Dデータ活用の溝

サンケイエンジニアリングの設計現場においては3D CADで設計した3Dデータが活用されている。3D設計については協力企業と取り組み、3Dデータを部品加工工場に送り、加工を依頼する場合もある。Web上で3Dデータを送って発注し、切削加工を行うサービスもよく活用しているという。CAEによるシミュレーションについては実験の補足的に使っているということだ。

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Webサイトから3Dデータで発注できるサービスによる切削加工品

サンケイエンジニアリングが対応する顧客はバックグラウンドが多様化している。とくにベンチャーやスタートアップ企業などからは、ソフトウェア系の技術者が機械系の相談に訪れることもある。機械系の製作物の相談に訪れたにもかかわらず、機械図面が描けないことが多いのである。一方、個人でも手が届く無償もしくは廉価な3D CADが登場、あるいは廉価な3Dプリンタが増えていることから、機械図面は書けなくても、設計物の3Dモデルは作れるという技術者からの相談も増えているという。

特に製造業が長いベテランからすると、このような状態に苦言を呈したくなるものかもしれない。「今後、製造業の中に、図面を描ける人、描けない人とで二極化するのではないかと思います」と土場氏は話す。しかし、その状態を悲観するのではなく、むしろ業界がそれにきちんとついていくべきであると考えているという。

「もちろん、製造業から機械図面がなくなることはないと思います。しかし3Dデータがあればモノが作れてしまうサービスが現実に登場している以上、図面を描かずに3Dモデルを使ってモノづくりをする世界も受け入れなくてはならないと考えています」(土場氏)。

町工場側は図面がある前提で部品製作を行う。町工場側がその意識を大きく変えてプロセス変えていくことは現実的には難しい。そこで土場氏は、設計データとして3Dデータしか持ち込まれない案件の仲介にも取り組んでいるという。手段が従来の勝手と違うという理由だけで、イノベーションの芽をつぶしてしまってはならないのである。

今後も変わらず、黒子としての進化を

とあるプロジェクトについて、「サンケイエンジアリングがやりました」「Garage Otaが関わりました」と声高にアピールされることはこれまでも、これからもずっとない。Garage Otaのオープン時も外部に対して派手にアピールすることなく、関係者だけを集めて小さくイベントを行っている。サンケイエンジアリングやGarage Otaはあくまで影であって、顧客の企業や技術者が光り輝いてくれたらよいのだという。

土場氏は今後も「プロ黒子」としての手腕をますます磨き、自社の設備もよりパワーアップさせたいという。その目標の1つとして、「熱比較センターを作りたい」と土場氏は述べる。企業が試作品を持ち寄って施設に立ち寄り、さまざまな機械で同時に熱に関する実験が流せるセンターが作りたいとのことだ。

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(執筆:DMM.make AKIBA)


【編集後記】
土場社長は大手メーカーのエンジニアから脱サラし、先代の事業を引き継ぐ形でサンケイエンジニアリングを設立しました。とはいっても、先代の会社はすでに清算後のタイミングであったために、承継する資産はなく、先代の加熱技術に関する知見のみを基にした起業でした。しかし、熱制御、あるいは熱応用技術が関係する産業分野は多肢にわたっており、さまざまな業界案件での長年の相談対応を通じて、現場目線での開発ノウハウを蓄積されてきています。発注者への丁寧な説明や、勘所をとらえたアドバイスに対する発注企業の評価は高く、まさに、大田区を代表するヒドゥンチャンピョン(黒子であってもインパクトのある企業)の1社であると言えます。

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