大田区ものづくり企業のご紹介

2019/12/05

“ものづくりは大田区だね!”と言われるように後継者とともに研鑽を続ける!-この町の技術者、職人と共に、顧客のアイディアを形にする企業

有限会社安久工機 
代表取締役社長 田中隆氏、
常務取締役 田中宙氏

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ものづくりコーディネーターとして大田区を牽引 有限会社安久(やすひさ)工機(こうき)

有限会社安久工機は、昭和44(1969)年に先代の田中文夫氏が創業し、今年50周年を迎えた。現在は文夫氏のご子息である隆氏が社長を引き継ぎ、孫にあたる(ひろし)氏と共に事業を承継している。
“前例がないものだからこそ作る”というチャレンジ精神、そして試作・開発50年の実績とノウハウを持ち、加工業者が密集する大田区で長い年月をかけて築いた協力関係を強みに、会社を超えた技術力で様々なものづくりをコーディネートしている。

「我々はコーディネーターとしてお客様と一緒に製品の設計をし、それぞれの作業が得意な工場にお願いして作ってもらった部品を集めて組み立てるので、社内には加工設備はほとんどありません」(隆氏)

創業当時から大田区内の加工会社の方々と密な協力関係を築き、今も当時と変わらない仲間回しの考え方で、区内企業と協力して仕事を進めている。

安久工機の主なクライアントは大学の研究室や企業の研究所だ。
大学、企業との関係が始まったのは、大田区で映写機や航空計器などの精密機械を扱っていた「北辰電気」の下請けとして試作開発のチームに入っていた頃に遡る。
きっかけは、北辰電気の社員が退職後、早稲田大学の助教授になり、東京女子医科大学と共同で人工心臓を開発するプロジェクトを開始したことだった。これまでの縁で声をかけられ、安久工機もプロジェクトに参加することになったのだ。

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「彼に声をかけてもらい私たちも一緒にプロジェクトに参加させてもらうことになりました。学生たちが書く図面のアドバイスをしたり、加工を引き受けたりして、このときから安久工機の医工連携事業が始まり、現在も継続しています。学生が卒業し就職した企業で研究開発に行き詰まったときに父のことを思い出して“安久だったらできるかもしれない”と言って相談をされることが多く、今でも様々な企業から直接お話をいただいています」(隆氏)

学生との関係は卒業後も続き、彼らが就職した企業がクライアントとなっていった。
様々な相談、依頼があるそうだが、安久工機が現在手掛けているのは、手術用の医療機器の治具や、融雪システムだという。

安久工機は共同開発だけでなく、自社製品の開発にも力を入れている。
これまでの代表作は、折畳式カラーコーン「パタコーンNN型」だ。折り畳めるカラーコーンはかさ張らずに持ち運びが可能で、東京オリンピックでも需要がありそうだ。
このような自社製品に力を入れる理由は、「会社の規模が小さくても自社製品があると技術を認知してもらえる」からだそう。

「現在は自社製品の売り上げは全体の数パーセントくらいしかありませんが、アイディア勝負の会社なので、自社製品が売り上げの40%くらいになればと思っています。手始めに、自社製品を開発するための資金調達を目的としたクラウドファンディングプロジェクトを9月から立ち上げました」(宙氏)

「自分たちが実際に資金調達の大変さや開発の難しさを体験することで、よりお客様の目線で一緒に設計ができるのではないか」という考えから、宙氏はクラウドファンディングなどの新たな試みも積極的に行っている。

大田区の町工場を未来に引き継いでいくために

宙氏は元々、経営管理ソフトの会社にいたが、家業を継ぐため退社し、安久工機に入社。現在は経営、WEB、ITの面で会社を支えている。
宙氏は、入社してから経営を見直すために様々なことを数値化していった。それまで感覚で「これくらい」と思っていた、注文や問い合わせ、新規のお客様の数を数値化したことで、より明確にこれからの会社に必要なことが見えてきたと隆氏は言う。

「最初は技術を伝えていこうと思っていましたが、どうやら息子は技術者のタイプではないようなので、違う面から時代に合った会社を作っていってもらいたいと思っています」(隆氏)

自分とは違う目線で会社を支える宙氏に寄せる期待は大きい。
減りゆく大田区の会社のなかで、安久工機が開発型企業として長年、大田区のものづくりをリードしてこられたのは、設計時にアイディアを提案し付加価値を付けることで唯一無二の存在となれたからだが、宙氏は、これからはそれだけではいけないと考えている。

「弊社に限らず多くの町工場がそうだと思いますが、安久工機は、孤高の技術者によって支えられている、職人ありきの会社です。しかし、これからは職人に支えられている会社から、継続的な成長ができる会社にしていかなければいけません。そのためにまず職人である社長に仕事を依存する体制を変え、設計ができる人を社内に増やし、そして大田区のネットワークを積極的に活用する体制を整えていこうと動いています。現在は営業ツールをどんどん作ってお客様や外注パートナーを増やす活動に力を入れています」(宙氏)

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宙氏は、「おおたオープンファクトリー」や「町工BAR」など、区内のイベントにも積極的に参加し、同世代の仲間と一緒に、大田区の町工場を盛り上げる活動を精力的に行っている。その理由は、町工場の減少を危惧する気持ちがあるからだ。

「昔からある工場の横にマンションができて、住人から騒音の苦情が来て町工場の方が改築しなければいけないという話を聞いたりすると、非常に残念に思いますし、一人親方でやられている工場は“もう自分の代で最後でいい”とおっしゃる方もいて、もしかしたらこれからさらにどんどん町工場がなくなっていってしまうかもしれない。でも、大田区外、東京以外でものづくりをしたい方は多くて、技術者を探している、各種技術を欲している方がいるので、そういう方たちに大田区が保有している技術、職人を提供できるサービス、システムがあればいいなと思っています」(宙氏)

宙氏は、その言葉通り動き出している。TwitterなどのSNSやITツールを駆使して、ものづくりがしたいデザイナーや、町工場の仕事のやり方に興味があるIT関係の人、単純にものづくりが好きな人など、ネット上にいる様々な“町工場と繋がりたい人”を集めて交流会も開いているのだ。
時代に沿ったやり方で新しい情報発信の場を作り、着々と仲間を増やしている。

技術の進化により、ものづくりのハードルはどんどん下がって、誰でも気軽にものづくりができる時代になった。安久工機は、機能試作、原理試作の会社で、最終製品のデザインは考慮しない試作を得意としているだけに、新たな人との繋がりは会社の未来にも関わってくる、と宙氏は考えている。

「最終的なデザインを意識した設計が今後はより必要になってくると思います。そうなったときにデザイナーとの繋がりがあることはとても有効です。そういう意味でも様々な人たちとの交流はおもしろい。SNSやSlackなどのコミュニケーションツールを使用し、これまでの仲間回しを大事にしながら、プレイヤーが有機的に集まるネットワークやシステムを構築していきたいと思っています。“ものづくりは日本だね、大田区だね”、そう言ってもらえるように町工場を引き継ぎ発展させていきたいですね」(宙氏)


【編集後記】
製品創造においては、適合材料の選択や効率的な加工方法について、幅広い経験値を有する試作パートナーの存在が製品化の成否を決めるとも言えます。安久工機さんは親子孫三代、50年におよぶ社歴の中で、産学連携や、地域の企業間ネットワークでの幅広い活動を通じて、試作開発におけるノウハウを積み重ねてきています。さらに、最近では、ものづくりにデジタルツールの活用や概念を積極的に取り入れクリエイテイブな製品開発に取り組んでいます。伝統的な家族経営の中小事業者でありながら、スタートアップ的な特性を有するあらたな地域のものづくり企業として発展することが期待されています。

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