大田区ものづくり企業のご紹介

2019/12/05

地に足の着いたITと丁寧なコミュニケーションで、社員も顧客も幸せに

ダイヤ精機株式会社 代表取締役 諏訪貴子氏

ダイヤ精機は自動車メーカーなどに向けたゲージや金型、治具製作を請け負う大田区内の企業だ。長年のゲージ製作などで培った経験と技術を生かし、設計提案から特殊加工、検査までに対応。多品種少量生産向けの一貫加工を得意とする。

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ダイヤ精機の本社工場社屋

同社のように、自動車のシリンダブロック向け組み立てゲージを製作できる企業は国内で5社ほどしかないという。組み立てゲージは、顧客向けに一品一葉で作成し、高精度の加工と組み立て技術を要する。

同社の創業は1964年。現在は2004年に就任した2代目の諏訪貴子氏が代表取締役を務める。諏訪氏は就任当時の改革における成果と、「主婦から社長に」という当時では珍しい経歴も相まって、たちまち「時の人」となった。2017年には諏訪氏の自伝を基にしたドラマも放映された。諏訪氏は大学の工学部を卒後し、数年であるがメーカーでのエンジニアの経験も持ち、その経験も社長就任以後の改革に生かされた。

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「もちろん今後の目標はありますが、そこに“夢”はあまり抱きません」諏訪氏は話す。まずは目の前の課題に一生けん命取り組み、現実的な取り組みを重視している。現在は社長就任から既に15年が経過。あれだけ話題になったからと、社屋が大きくなったり、特別きれいになったりといったこともない。1階の現場も、古い機械が残り、油のにおいが漂う、ごくありふれた町工場の風景だ。また今後は、社員数30人ほどの規模を上限にしていくという。

1つ大きく変わったこととしては、20~30代の若手社員の数がとにかく増えたことだという。ダイヤ精機の改革エピソードとしてよく語られる、社員との「交換日記」は今も現役だ。業務日報交換日記では、書き方についてあれこれ厳しく言わず、自由に書かせているという。そうしていくことで、社員の性格や特性を把握していくとのことだ。

現場に足を運べば、「ねえ、なに話しているの?」と社員の会話の輪の中に入っていく。和やかな環境の中、これからを担う若手たちを育成している。諏訪氏が今もなお大事にし続けているのは、肩肘のはらないコミュニケーションである。

この10年間も「大変だった」、仕事は増加傾向

この10年でダイヤ精機が特に力を入れて取り組んだのが、「若手の採用」だった。かつては50代以降の熟練社員が多数であったが、その比率はどんどん変わっていき、今は20~30代の若手社員を中心とする構成となった。

ダイヤ精機の取り組むゲージ製作の技術は、属人的ノウハウが左右する部分が多くを占める。同社にとって「団塊世代の引退」問題はヒヤリとするものであったという。「熟練社員が退職すれば、技術もそのままなくなってしまうからです」(諏訪氏)。そのような危惧をいだき、若手をとにかく積極採用し、定年を控えた熟練社員とペアになって1年ほど一緒に仕事をしてもらい、技術を継承していった。

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作業中のエンジニア

採用の際には、新卒か中途か、出身学科や経験は全く問わなかった。「中途採用の人も未経験の人がほとんど。雑貨屋の店員、美容師など、いろいろな職歴の人がいました」(諏訪氏)。人材採用には、大田区のマッチングフェアを活用した他、企業Webサイトやパンフレットの整備なども実施した。

そういう現場未経験の若手たちを採用しても、業務をまわすために必要なスキルを半年~1年ほどで習得していくという。「人は、自分の経験がなかったことだとしても、目の前に課題があると、乗り越えてしまうものだと信じています」と、過去の自身の体験とも重ねるように諏訪氏は話す。採用した際には、設計や製図、加工などの工学の基本(座学)を学習する期間も1週間設けている。この10年間で採用した若手たちは、現場で活躍するレベルに着々と育っている。

また2008年のリーマンショックのインパクトはやはり大きかったという。「収益はピーク時の1割にまで落ち込みました」(諏訪氏)。諏訪氏の就任以来、過去の国内のオイルショックの教訓を基にして、「万が一の事態」に備えて、企業としての力を十分に蓄えてきたものの、その力を1年で使い果たしてしまうほどであったという。「顧客のメーカーに社員を出向させてしのぎました」(諏訪氏)。厳しい時期に社員の出向を受け入れてくれたメーカーへの感謝の念は大きいというが、これまでの同社の顧客との関係づくりと若手育成が窮地を救ったともいえる状況だ。今、窮地は乗り越え、むしろ仕事は増加傾向であるという。

中小製造業とITのほどよい関係

若手の比率が大きく増えた中、課題となったのが、生産効率だった。例えば、加工時間そのものは若手でも熟練でも大きく変わらないが、図面から加工に入るまでの段取りの時間で大差が出るという。段取りは経験の数が大きく左右してしまう部分だ。そこは経験を重ねるしかない部分であり、無理やり縮めることはできないとして、諏訪氏は違う部分に目を向けた。

社員たちに負荷が大きく掛かっていたのは、資料を探す時間やミーティングの時間など設計や加工以外の間接業務の時間だった。諏訪氏自身もまた、社員の業務の進捗状況をよく把握したかった。しかし今は出張が多く、頻繁にミーティングに参加する、毎日全員に話を細かく聞くといったことは現実的には厳しかった。

そこで社内の業務や生産にかかわる全ての情報を一カ所に集め、情報を探しやすく、かつコミュニケーションしやすい手段を探した。

既存の管理ソフトウェアをいろいろと検討したり導入したりしたが、オーバースペックであったり、特にITに慣れていない人にとっては使いづらかったりした。既存のソフトウェアではうまく現場に浸透しなかったという。

自分たちの事業規模や業務に見合い、導入しやすく使いやすいソフトウェアがなかなか見当たらず、ついには「作ってしまおう」ということになった。生産管理システムを開発していたITベンダーのテクノアと共に「Lista」の開発に2017年から着手。2019年1月にリリースした。開発の過程では、町工場の現場から見て使いやすいインタフェースや機能について、綿密に議論を重ねてきたといい、一番時間を割いたのもそこであるという。

[図]予約管理、プロジェクト管理、社内申請・報告など、中小製造業様の情報共有と業務効率化をサポートします。
Listaについて

Listaはソフトウェアをインストールする必要がないクラウドソフトだ。インターネットや電子メールを使える人であれば、誰でも使うことができる。このソフト上では、全体スケジュールと課題進捗管理、申請関連の管理をすることが可能で、図面や設計資料の共有も可能だ。ダイヤ精機ではListaを入れたことで、情報管理やコミュニケーションの効率は大幅に改善され、日々その効果を実感しているという。

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Listaの機能の概要

「不良品が出ると、Listaが通知するようになっています。以前に1回、不良品の通知が出ました。それで身がひきしまったのか、しばらくずっと不良品ゼロの期間が続きました。実は最近、また不良を1つだけ出してしまったのです。『気がゆるんできたかな』と(笑)。その後もまた、ゼロです。不良品を可視化する効果は、皆の気を引き締める効果があると思います」(諏訪氏)。

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ソフトウェアの価格はVer.01ということもあり、現状はワンコイン未満の490円に据え置かれている。ダイヤ精機くらいの規模の会社がこのような管理ツールに投資できるのは大体月1万5000円が限度だと想定した。社員数が30人であれば、1人当たり500円となる。この換算が価格設定の一番の根拠となっている。目標の利益に基づいて決定されているわけではない。

そもそも諏訪氏はListaでビジネスをしようとは考えていない。自社が欲しかったツールを作って自らで実践し、それを中小製造業の仲間たちにも展開し、業界全体を改革していこうという取り組みだ。中小製造業に着々と広めるためには、皆にとってコストの負担にならず、簡単に使いやすいものを作ることが非常に大事であると考えたという。

Listaは、クラウドの環境を生かした生産現場の効率アップをより一層目指す機能を実装予定だ。次のバージョンアップは2019年12月中を目指している。

地に足の着いた改革

ダイヤ精機は3D CADやクラウドの生産管理ツールを導入し、設計・生産現場の効率化を図っている。これらの施策は、現場の現実的な状況に寄り添いながら、コスト的にも無理のない範囲で丁寧に取り組んでいる。製造業のIT関連としてはIoTやVRといった最新技術も話題であるが、諏訪氏はそれらの技術について、もちろん今後考えられる取り組みの一部として視野には入れているものの、まだ様子見の段階であると話す。

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作業現場の様子

「組み立てゲージは、クルマからエンジンがなくなって電動化しても必要なものです。仕事の需要については将来も変わらないと見ていますし、実際に電動自動車(EV)関連の受注が増えています」(諏訪氏)。

クルマが電動化しようとも、ゲージの技術そのものは普遍的なものであり、その製作の技術においては電子化が不可能な領域がほとんどであると諏訪氏は言う。いくら改革しようとも、自動化ができない世界であり、生産効率を劇的に高められるものではなく、技術継承もそう簡単ではない。そのためダイヤ精機では、少数精鋭の人材で、目の前の仕事に丁寧に取り組める体制づくりを重視している。

中小製造業を取り巻くビジネス環境は今後、より厳しくなると各所で予想されている。その中で、生産性を高めていくことで、市場での競争力を高めていくことも大事だとされる。しかし、企業の身の丈に合わない改革やITシステム導入をしてもうまくいかない。逆に、現実の問題ばかりに目を向けすぎて、何も動けなくなるのはさらに問題である。

大事なのは、ダイヤ精機のように、自社の強みを明確にし、経営者と社員、顧客ができる限り幸せになれる取り組みは何かどうかを考えぬくことではないだろうか。そして、その答えは企業それぞれである。

(執筆:DMM.make AKIBA)


【編集後記】
測定技術は日本が誇るものづくり産業のコア技術ですが、さまざまな産業用途において品質を担保するうえでのキラーテクノロジーともいえます。
ダイヤ精機株式会社は、長年、日本のゲージ技術を牽引する中で、設計提案から加工相談において、発注者要件に柔軟に対応するノウハウを蓄積してきています。
主取引先である自動車業界は世界的に次世代モビリティへの変革の動きが進んでいますが、むしろ、新たな部品に対応したゲージ開発の重要性は増していると言えます。
諏訪社長は中小製造業が日本のサプライチェーンの中でしっかりとその役割を果たすためには生産性の向上が喫緊の課題であるとして、中小事業者の現場目線で経営管理や生産管理ツールの開発にも取り組んでおられます。先端製品創出の取組みと中小事業者の生産性向上に取り組むダイヤ精機さんの今後の発展に注目してゆきたいと思います。

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